伝統建築に学ぶ 琉球赤瓦編
背景は「知恵のかたまり」中村家住宅(北中城村)
背景は「知恵のかたまり」中村家住宅(北中城村)
本ページトップの背景写真は、キャプションにもある通り、国指定重要文化財中村家住宅(沖縄県中頭郡北中城村大城)の屋根を北西側から撮影したものです。この住宅を象徴する赤い瓦は琉球赤瓦と呼ばれています。日本の瓦において素焼きの瓦が用いられるのは、冬季に凍害の心配がない南西諸島エリアならではの特徴と言えるでしょう。
この中村家住宅の瓦を手掛けた瓦師であり、芸術家でもある奥原崇典氏からは、琉球赤瓦についてさまざまなことを教えていただきました。瓦の素材は「苦土(クチャ)」と呼ばれる灰色の粘土ですが、沖縄本島南部・糸満の土を加えて焼き上げることで、自然な赤色が引き出されるのだそうです。「赤瓦」と呼ばれていますが、どこか南欧的な印象も感じます。土壌そのものが持つ色合いを引き出した焼き物が持つ共通性なのでしょうか。
2010年に奥原さんのご紹介で初めて中村家住宅を訪れて以来、私は学生たちとともに琉球赤瓦の屋根や中村家住宅の調査を続けてきました。その中で見えてきたのは、沖縄の環境に見事に適合した建築をつくり上げた、先人の深い知恵でした。(2026年8月8日)
中村家住宅 正面 世界遺産「中城城」城壁の職人技による石壁が美しい
写真:表面温度が気温並み 琉球赤瓦
建築の仕事をしていると、屋根に登る機会があります。夏場の日中に瓦屋根へ登ると、特に辛いのが瓦の熱さです。よく晴れた日には表面温度が60℃以上に達することも珍しくなく、軍手を着けていても火傷しそうなほど熱くなります。ところが、沖縄の赤瓦は触ると冷たいのです。
その理由は、沖縄の瓦が素焼きであることにあります。素焼きの瓦は雨が降ると水分をしっかり吸い込みます。そこに強い夏の日差しが当たると、蓄えられた水分が蒸発する際の気化熱(蒸発潜熱)によって瓦自体の熱が奪われ、冷やされる仕組みになっています。
アメダス那覇のデータによると、梅雨明け後の7月の月平均降水量は188ミリ。梅雨時期に比べると雨量は減るものの、台風や急なスコールなどによって沖縄では夏場も適度な降水があります。雨が降るたびに瓦に水が蓄えられ、強い日差しが戻ると瓦が自らを蒸散で冷やす。強い太陽エネルギーを受け止める琉球赤瓦は、自然の摂理を巧みに活用することで、熱くならない工夫がなされていたのです。
沖縄ならではの気候風土に寄り添う素焼きの瓦。これこそが、琉球赤瓦に秘められた先人の知恵のひとつなのです。(2026年8月9日)